仕入税額控除の際にインボイスの保存を省略できる取引
2024/03/04
令和5年10月のインボイス制度開始後は、原則として仕入税額控除はインボイスの保存のある取引に限られます。
ただし、インボイス制度開始後でも、一定の取引についてはインボイスの保存がなくても、帳簿に必要な事項を記載することで仕入税額控除が認められるものがあります。
インボイスの保存が省略できない取引と間違えやすい取引など、一部筆者の私見も交えながら、その制度趣旨とともに考えてみたいと思います。
1.「公共交通機関特例」
公共交通機関を利用した場合は、1回の取引が3万円未満であればインボイスの保存が省略できます。
そもそも公共交通機関であるバス、船舶、鉄道においては、3万円未満の運賃についてインボイスの交付が免除されており、免除されている書類を保存することは事実上困難です。(もちろん、3万円未満であっても交付することが制限されているわけではありません。)
乗車切符などの仕組みが、不特定多数の人を運搬し、従来から切符を発行し使用後に回収するという方式から始まっているので、書類の保存にはなじまないという趣旨であると考えられます。
2.「出張旅費特例」
出張旅費特例には、出張旅費、宿泊費、日当、通勤手当が含まれます。
これらは、企業が従業員に対して手当として支払うものになります。従業員は事業者でないためインボイスの発行はできません。
ただし、その手当の実態は従業員が通勤用のガソリンを購入する、新幹線を使って移動する、出張先で宿泊する、得意先を接待するといった費用の実費弁済的な性格です。
最終的に会社に代わって従業員が課税仕入れをしていることと変わりないため、その実態に即してインボイスの保存がなくても課税仕入が認められると考えられます。
3.「公共交通機関特例」と「出張旅費特例」の違い
公共機関特例は、会社が公共交通機関に直接運賃を支払った場合の特例です。従業員が一旦立て替えた運賃を会社が精算する場合も公共交通機関特例が適用されます。
これに対し出張旅費特例は、会社から従業員に支払う手当の特例です。
例えば1回4万円の新幹線の運賃について、従業員が立て替えた運賃を実費精算する場合はインボイスの保存が必要になりますが、出張旅費特例を用いて旅費として処理する場合はインボイスが無くても仕入税額控除が出来ます。
もちろん出張旅費は妥当な金額であることが条件です。
インボイス制度に関しては旅費規程の作成は必須ではなく、一般的に出張と認められる遠距離のものであれば旅費規程を適用することが出来ると考えられます。
4.「古物営業」「質屋業」「宅地建物取引業」「リサイクル業」
これらの事業者へ物品を販売する者の中には一般消費者が多く存在すると考えられます。
消費税は商品やサービスを消費することに対して課税される税ですが、古物、質物、中古住宅、資源物などにはそれに価値が存在するということは、その一部について消費が完了していないと考えることが出来ます。消費が完了していない価値の消費税を消費者が負担することには、消費税法の考え方からして不合理が生じるため、未だ消費されていない部分の消費税について仕入税額控除を認めることによりつじつまを合わせているものと考えられます。
このような理由から、従来から、古物、質物、建物、資源物などで一般消費者から仕入れたものは仕入税額控除が認められており、インボイス制度開始後に一般消費者から仕入れた商品の仕入税額控除が認められなくなることは業界に大きな影響を与える可能性があるため、それを回避するためにインボイスの保存がなくても仕入税額控除ができると考えられます。
5.「郵便切手特例」
郵便切手は販売の段階では物品切手に該当し消費税の非課税取引に該当します。したがって販売時にはインボイスの発行そのものが出来ません。
郵便ポストに投函した際に課税取引を行ったことになりますが、ポストに投函した時に郵便局に行ってインボイスを発行してもらうことは現実的ではありません。
インボイスの発行が難しい取引のインボイスを保存することは非現実的なのでインボイスの保存がなくても仕入税額控除ができることになります。
これは郵便ポストに投函される切手の特例であって、切手であっても、コレクションのように切手そのものが取引の対象となるような取引は仕入税額控除ができません。
6.「自動販売機特例」
公共交通機関特例と同様に、自動販売機、自動サービス機によって行われる3万円未満の商品やサービスの販売はインボイスの発行が免除されています。
公共交通機関特例の場合と同様に、発行が免除されている書類を保存することは困難です。
ジュースの自動販売機、銀行のATM、コンビニのマルチコピー機、コインロッカーなどがこれに該当します。
従来からジュースの自動販売機やコインロッカーからは領収証が発行されない慣習があり、これらにインボイスの発行を求めると機械の改修に多くの資金が必要になることへの配慮と考えられます。
7.「自動販売機特例」に該当しない取引
消費税法基本通達1-8-14には自動販売機特例に該当する取引は「代金の受領と資産の譲渡等が自動で行われる機械装置であって、その機械装置のみで代金の受領と資産の譲渡等が完結するもの」とあります。
以下のような取引は自動販売機特例の対象外であり仕入税額控除にはインボイスの保存が必要です。
・無人場販売
無人販売所は機械装置ではないので自動販売機特例に該当しません。
・セルフガソリンスタンド
セルフガソリンスタンドは給油が自動で行われないため自動販売機特例に該当しません。
・ETCによる有料道路の利用
ETCはその名の通り電子料金徴収システム(Electric Tool Collection System)です。ETCはあくまで料金徴収機械であってサービス自体は道路を使用することで提供されるため自動販売機特例に該当しません。
自動販売機特例に該当するか否かは消費税法基本通達1-8-14では解釈が難しい取引があります。
インボイス保存の要否について分からなくなったら、難しい理由を考えるより先に、それぞれ個別に適用の可否を調べるのが早道かもしれません。
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