生計一親族間の取引について
2024/03/11
概要
所得税法は、夫婦がそれぞれ別々の事業を行っているときは、夫が妻に仕事を依頼して支払った費用は夫の経費とならない一方、それを受取った妻は収入にしなくてよいとする規定を設けています(所得税法56条)。この規定は家族ぐるみで商売を行うケースのみならず、家族がそれぞれ独立した事業を行っているケースにまで適用されるため注意が必要になります。
目次
1⃣ 親族が得た対価に要した費用の取扱い
⑴ 生計一親族が事業から受ける対価
所得税法56条の趣旨は、事業等に係る所得について、事業経営者を中心とする家族単位で所得計算を行おうとするものです。生計一親族が事業に従事したこと等によって、その事業から対価の支払いをしても原則的には事業の必要経費とはなりません。(専従者給与を除く)
一方、その対価の支払いを受けた親族は収入にしなくてよいというものです。規定の趣旨からすると、家族ぐるみで事業を営む場合のみ適用される規定のような印象を受けますが、それぞれ独立した事業を営む親族間においてもこの規定は適用されるため注意が必要となります。
⑵ 弁護士・税理士事件
それぞれ独立した事業を営む親族間においてこの規定が適用の可否が争点となったものに、弁護士夫婦事件や弁護士・税理士事件があります。
弁護士夫婦事件の内容は、弁護士である夫が、他の事業を営んでいる弁護士である妻に対し、夫の業務に従事した労務の対価として報酬を支払い、これを事業所得の必要経費に算入して所得税の確定申告をしたところ、税務署長が所得税法56条を適用し、妻への報酬を必要経費に算入することを認めず、更正処分を行ったという事案です。夫と生計を一にする妻が、夫と別に事業を営む場合であっても、夫が妻に支払った報酬につき、所得税法56条が適用されるかどうかが争点となりました。最高裁は「居住者と生計を一にする配偶者その他の親族が居住者と別に事業を営む場合であっても、そのことを理由に同条(所得税法56条)の適用を否定することはできず、同条の要件を満たす限りその適用があるというべきである。」と述べ、必要経費とすることを認めませんでした(最高裁第三小法廷平成16年11月2日判決)。
- 弁護士・税理士事件の内容は上記の弁護士夫婦事件と似ていますが、税理士である妻が夫の税務申告書の作成のために要した費用を、弁護士である夫の必要経費にすることを認容しました。この金額を算定するためには、妻の必要経費のうち、夫の税務申告書の作成に要した金額を算定しなくてはなりません。課税庁は請求人がその金額を明らかにしなかったとして夫の経費として認容しませんでした。しかし、審判所が一定の方法により算定した金額を、弁護士である夫の必要経費として認容しました。
この所得税法56条は、所得税について設けられた規定です。そのため、消費税などの所得税以外の税目における生計一親族間の取引について適用はありません。
2⃣ 親族間の使用貸借と所得税法56条
⑴ 資産の無償使用
妻の所有する土地に夫がアパートを建築し、夫は妻に地代を支払わないとします。妻が支払う土地の固定資産税は、妻が地代を受取っていれば経費になりますが、このケースでは地代を受取らないので、家事費に該当するように思われます。しかし、この場合においても所得税法56条が関係してきます。
無償により生計一親族の資産を使用した場合については、基本通達56-1でその取扱いが示されています。
所得税法基本通達56-1 (親族の資産を無償で事業の用に供している場合)には次の様に規定されています。
不動産所得、事業所得又は山林所得を生ずべき事業を営む居住者と生計を一にする配偶者その他の親族がその有する資産を無償で当該事業の用に供している場合には、その対価の授受があったものとしたならば法第56条の規定により当該居住者の営む当該事業に係る所得の金額の計算上必要経費に算入されることとなる金額を当該居住者の営む当該事業に係る所得の金額の計算上必要経費に算入するものとする。
このケースですと、夫の不動産所得の計算において、妻が支払う土地の固定資産税が必要経費となります。また、夫の必要経費とされた固定資産税は、妻の所得計算上、なかったものとされます。
この様に生計同一親族所有の不動産を無償で借り受け、事業をする場合には、建物の所有者に係る固定資産税、減価償却費、火災保険料、建物の取得のための借入利子等は、その事業者の必要経費に算入することになるので注意が必要です。
3⃣ まとめ
今回は生計一親族間の取引についての解説をしました。働き方の多様化に伴い、夫婦でそれぞれ事業を営むという方もいらっしゃると思います。所得税法は個人単位課税が原則ですが、このような規定が存在するため注意が必要となります。
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