株式会社取締役の特別背任罪
2025/03/10
今回は、取締役が自己の会社に故意に損失を与える行為をした場合など、取締役の行為と特別背任罪の関係について、刑法に規定する背任罪と会社法に規定する特別背任罪を取り上げます。
目次
背任罪と特別背任罪の違い
背任罪
背任罪とは、他人のための事務処理者が信頼関係に違反して図利、加害目的で任務違背行為を行い、財産上の損害を生ぜしめる罪であり、5年以下の懲役刑(令和7年6月1日以降は「拘禁刑」以下同じ)又は50万円以下の罰金刑が課されると刑法に規定されています。背任罪は故意罪であり、構成要件に図利目的又は加害目的を要求しています。つまり背任罪が成立するためには、故意に自己または第三者の利益を図り、委任した本人に損害を与える目的が必要になります。
背任罪は、任務違背行為を行った結果、財産上の損害が発生した場合に成立ますが、不十分な信用で本人のお金を第三者に貸付けた場合など、未だ実害は発生していない状況であっても、実害発生の危険があれば損害があるとする判例もあります。
特別背任罪
特別背任罪は、刑法の特別法として会社法に規定されています。特別背任罪の構成要件は、図利、加害をもって任務に違反し財産上の損害を与える行為であり、この部分では(1)の刑法に規定する一般の背任罪と構成要件は同じですが、行為の主体が株式会社の重要人物であり、損害を与える相手先は株式会社と規定されています。また、刑については、特別背任罪では、10年以下の懲役若しくは1,000万円以下の罰金に処するとし、懲役については背任罪の2倍、罰金については20倍の刑を与えています。これは、株式会社は株主、取引先など多数の利害関係者が存在するため、会社の重要人物の背任行為は通常の背任行為よりも悪質であると考えられるため刑法に規定する通常の背任罪よりも刑が加重されているためです。
背任罪と特別背任罪の比較
背任罪は刑法に規定されているのに対し、特別背任罪は背任罪の特別法として会社法に規定されています。両罪の構成要件はほぼ同じですが、犯罪者の主体が異なります。すなわち、背任罪の主体は「他人のためにその事務を処理する者」という範囲の大きな規定ですが、会社法960条には特別背任罪の主体として、発起人等、取締役、会計参与、監査役又は執行役、支配人、事業に関するある種類又は特定の事項の委任を受けた使用人などが列挙されています。具体的には、会社の従業員が会社に対してした任務違背行為については刑法の背任罪が適用されますが、取締役や監査役などの会社に対して重要な役割を有し又は義務を負う者がした任務違背行為には会社法の特別背任罪が適用されることになります。
背任罪も特別背任罪も非親告罪といって、被害者による告訴が無くても公訴を提起することができるため、第三者による告発によって事件となる可能性もあります。
特別背任罪の事件例
拓殖特別背任事件
特別背任罪に問われた事件例として、拓殖特別背任事件があります。株式会社北海道拓殖銀行(以下「拓銀」と言う)の代表取締役(以下「頭取」という)らは、北海道でレジャー施設等を経営するソフィアグループに対し昭和58年ころから本格的融資を開始しました。しかし、拓銀の融資によって建設したホテルの売上は当初見込みの半分程度にとどまり採算性が見込めないものでした。さらにソフィアグループは拓銀系列である株式会社たくぎんファイナンスサービスから多額の融資を受けてホテル東地区の総合開発を図るものの、未買収部分が点在し、開発計画の内容も定まらず、深刻な問題を抱えていました。このような状況でソフィアグループの資産状態、経営状況は悪化し、平成5年5月ころには、拓銀が赤字補填のための追加融資を打ち切れば直ちに倒産する状態に陥りました。拓銀の頭取らは平成5年7月にはソフィアグループが実質的倒産状態にあることを知りつつも、経営改善や債権回収のための抜本的は方策を講じることも無いまま、平成6年4月から平成9年1月までの間に、同グループに対し合計98回にわたり合計85億7150万円の融資を行いました。
これに対し最高裁は、銀行の取締役が負うべき注意義務については、銀行業が広く預金者から資金を集め、これを原資として企業に融資することを本質とする許可事業であること、銀行の取締役は金融の専門家であり、万一銀行経営が破綻し、あるいは危機に瀕した場合には預金者及び融資先をはじめとして社会一般に広範かつ深刻な混乱を生じさせること等を考慮すれば、融資業務に際して要求される銀行の取締役の注意義務の程度は一般の株式会社の取締役の場合に比べ高い水準のものであると解されるとして、Aらは銀行の取締役として融資に際し求められる債権保全に係る義務に違反したことは明らかであり、第三者図利目的も認められるとし、特別背任罪における取締役としての任務違背があったと結論付け、頭取らを有罪とし実刑が確定しました。
拓殖特別背任事件のその後
拓銀は本件のようにバブル期に積極的な拡大路線を図ったことが経営を圧迫し、平成9年に経営破綻し、事業は北洋銀行等に引き継がれました。
判決理由では、銀行業は許可業であり、経営が社会に与える影響は大きく取締役の注意義務の責任は重いとされました。被告人Aらは裁判で「すべての融資は、銀行の損失を最小化するための経営判断として行ったこと。自己保身という意識はかけらもなかった」と主張しています。融資当時はそのような認識だったのかもしれませんが、バブル期の拡大路線が判断の冷静さを失わせ、結果として誤った判断の連鎖から抜け出せなくなってしまったのかもしれません。
銀行の頭取は冷静な経営判断が求められますが、それは会社の業種や規模の大小に係わらず全ての株式会社に共通することです。
おわりに
特別背任事件については、最近では、カルロス・ゴーン氏の日産に対する任務違背行為が記憶に新しいと思いますが、大企業に係わらず、株式会社は、株主、債権者、取引先など多数の利害関係者が存在するため、その社会的責任は大きいものです。会社法は株式会社に決算公告等の財務状況の開示を義務付けていて、株式会社は非上場会社であっても会社の規模に関係なく財務状況の開示の義務があります。それだけ株式会社の運営に係わる人物の責任は大きいと言え、中小企業の経営者はコンプライアンス厳守と適正な経営判断が求められる重責を負っています。
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