税務における貸倒損失の計上
2024/09/16
法人が事業を行っていく上で、売掛金や貸付金等の債権が回収できない状況に陥った場合、一定の要件を満たすことで貸倒損失として損金経理が容認されています。今回の記事では、その具体的な要件を紹介します。
目次
税務における貸倒損失について
貸倒損失とは、売掛金や貸付金等の営業・営業外の金銭債権が回収不能になった場合の損失のことをいい、一定の事実が生じた場合に、その金銭債権の額を貸倒損失として損金算入することが認められています。ただし、貸倒損失として損金算入されるためには、その債権の全額が回収不能となることが必要となります。金銭債権が全額回収不能であるかどうかの事実認定は非常に困難であり、個々の事案の事情を考慮して判断しなければならないため、容易な損金経理は危険を伴うので注意しましょう。
前述のこともあり、国税庁では貸倒れの判定に関する一般的な基準として3つの通達が定められているので紹介します。
金銭債権の全部又は一部の切捨てをした場合の貸倒れ(法律上の貸倒れ)
法人税法基本通達9-6-1の規定は、法律上金銭債権が消滅した場合に貸倒損失を認めるものです。法律上の貸倒れとして、次の5つの場合を規定しています。この通達は、「貸倒れとして損金の額に算入する」と規定されており、例え貸倒損失として損金経理していなくても申告書上で損金算入されることになります。
●取扱い(基本通達9-6-1)
留意すべきなのは⑸の場合で、書面により債務免除をすれば、貸倒損失として損金算入できるというわけではなく、あくまでその前提として債務者の債務超過の状態が相当期間継続し、その金銭債権の弁済を受けることができないと認められる必要があります。
支払能力があるにもかかわらず債務免除をした場合には、債務者に対する贈与となり、寄附金課税の対象となってしまいます。具体的に、役員に対するものは、役員給与の損金不算入額、社外の者等については寄附金の損金不算入額の対象となるので、注意しましょう。
回収不能の金銭債権の貸倒れ(事実上の貸倒れ)
法人税基本通達9-6-2の規定は、法律上金銭債権が消滅した場合でなくても、債務者の資産状況、支払能力からみてその全額が事実上回収不能であることが明らかになった場合に、その明らかになった事業年度において、損金経理を要件に損金の額に算入することを認めたものです。
●取扱い(基本通達9-6-2)
留意すべきなのは、損金算入時期と担保物がある場合です。貸倒損失の損金算入時期は、金銭債権の全額回収不能が明らかになった事業年度において損金経理する必要があり、担保物がある場合には、その担保物を処分した後でなければ貸倒損失として損金経理することは認められていません。
また、あくまでも金銭債権の全額を回収できないことが明らかになった場合に損金算入が認められるもので、一部の貸倒れが見込まれる場合にその一部についてのみ損金算入を認めるものではないことに留意する必要があります。
取引停止後一定期間弁済がない場合等の貸倒れ(売掛債権の特例)
法人の営業活動から生ずる売掛債権については、その全額の回収不能が明らかでなくても、次の2つの場合には、備忘価額を付し、残額について損金経理を要件に、損金算入が認められています。
●取扱い(基本通達9-6-3)
対象となる売掛債権は、売掛金・未収請負金・その他これらに準ずる債権に限られ、貸付金・その他これらに準ずる債権は含まれません。また不動産取引から生じた売掛債権については、継続的な取引でないため適用外となります。
また、売掛債権が債務免除又は実際に回収が見込めないため貸倒れとなるまでの間は、取引先ごとに1円以上の備忘価額を付さなければなりません。
終わりに
貸倒損失は、売掛金や貸付金などの全額又は一部を回収できない状態であることを債権者ある法人が証明する必要があり、回収不能の事実認定や計上時期に関して税務調査でトラブルになることが多いと言われています。
貸倒損失で処理する前に、まず債権の回収努力をすること、そして回収不能の客観的な根拠による立証が重要となるため、事実関係を積み上げて回収不能であると判断した根拠を説明できるように準備しておきましょう。
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