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財産評価基本通達の意義及び法的性質と適法性 -財産評価基本通達総則第6項の適用に関連して-

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財産評価基本通達の
意義及び法的性質と適法性
 財産評価基本通達総則第6項の適用に関連して

財産評価基本通達の意義及び法的性質と適法性 -財産評価基本通達総則第6項の適用に関連して-

2026/06/15

 国税庁は非上場株式の評価方法を見直す方針を示しています。令和8年内に改正議論を進め、令和9年度税制改正で調整する方向で進んでいます。評価ルールの抜本的見直しが実現すれば昭和39年以来の大きな改正になります。

相続税法22条には、相続、遺贈又は贈与により取得した財産の価額は当該財産の取得の時における時価により評価すると定められていますが、相続税や贈与税についての調査があった場合の更正や決定といった処分に用いる時価の具体的な評価方法は定められていません。このため課税の公平を保つために画一的な評価基準として財産評価基本通達(以下「評価通達」といいます)が用いられています。評価通達は評価に画一性、平等性、予測可能性を与える反面、評価通達を逆手にとる評価をして租税回避を図る余地があるなどの不合理性も併せ持っています。今回は、評価通達の意義や性質を整理しながら、評価通達の財産評価に及ぼす効力と、評価通達にそのまま従った申告や課税処分の適法性について考えてみたいと思います。

目次

    1 通達の意義と法的性質

     まず、評価通達の位置づけについて確認します。評価通達は国税庁が発遣した法令解釈通達の一つです。法令解釈通達とは、法律や施行令など(以下「法令」といいます)において明確な規定がされていない部分について国税庁の考える解釈を示したもので、法令解釈通達は通達の一種です。通達とは、行政処分の統一性を保つために行政機関内で用いられる法令の解釈基準です。通達は行政機関を拘束しますが、国民と裁判所を拘束する効力はありません。また、国税庁の特別機関として、国税不服審判所があり、形式上は国税庁の下部組織に置かれていますが、国税庁が発遣する法令解釈通達は、原則的には国税不服審判所を拘束する効力もありません。

     このように評価通達は、相続税法に定める財産の「時価」について、国税庁の解釈を示したものであり、相続税や贈与税の調査において税務署の職員が画一的な判断ができるように示された基準で、国民、裁判所、国税不服審判所を拘束する力はないのですが、実際の税務調査は通達に沿って行われるため、通達の基準に対し反論することは難しいというのが現実です。

    2 評価通達の適用が争われた裁判例

    1 持分の定めのある社団医療法人の出資持分の評価

     

    次に評価通達に従った評価の意義について、2つの裁判例を元に検討してみます。

     

    【最二小判平成22年7月16日】

     本件は、社団医療法人の増資の際に、新定款に基づき法人の理事長及びその妻子が1口当たり5万円で出資を引き受けたところ、税務署から当該出資が相続税法9条に規定する「著しく低い価額の対価」に該当するとして、評価通達194-2(医療法人の出資の評価)に従って評価した評価額(1口当たり379万円)との差額にあたる金額のみなし贈与があったかが争われた事案です。最高最は、税務署が出資の評価額を379万円と算定したことに違法性はなく、理事長らがした出資の引き受けは「著しく低い価額の対価」で利益を受けたことになると判示しました。

     この事案では、新定款では出資の払戻の対象が財産の一部に限定されていたとしても、その後定款変更は可能であり、客観的にみた場合、財産全体につき自らの出資割合に応じて払戻し等を求める潜在的可能性を有するのであるから、評価通達194-2に従って、法人の有する財産全体で評価することに合理性があるとされました。

    2 評価通達総則6項の適用

    【最三小判令和4年4月19日】

     評価通達総則6項には「この通達の定めによって評価することが著しく不適当と認められる財産の価額は、国税庁長官の指示を受けて評価する。」と規定されています。つまり、評価通達によれば、評価通達に示した評価方法のどれを適用しても評価が困難な財産の評価は、調査の際には、国税庁長官が評価通達によらない別の評価方法を指示し、その指示された評価方法に従って財産の評価を行うことになります。

     本件は、納税者らが不動産の通達評価額3億3,370万円余に基づき相続税0円とする申告を行なったことに対し、税務署は、不適正な評価額として鑑定評価額12億7,300万円に基づき更正処分を行い争った事案です。高齢であった被相続人は相続税の申告を念頭に銀行で財務診断を受け、借入れにより不動産を取得した場合の相続税の圧縮効果について説明を受けた上で銀行から借入れをし、賃貸不動産を購入しました。納税者は相続開始後9ヶ月足らずで相続した一部の不動産を売却、現金化し、借入金も返済しました。

     この事案では、相続税の課税価格に算入される財産の価額について、評価通達の定めに従って画一的な評価を行なうことが税負担の公平に反する合理的な理由があると認められる場合には、財産の価額が評価通達の定める方法によって評価した価額を上回る価額であっても平等原則に反するものではく、課税当局が計算した鑑定評価額は適法であると判示しました。

    3 まとめ

     2つの裁判例は、前者では納税者がした主観的な評価を認めず、評価の客観性を重視して、評価通達に従った画一的な評価が適法だとされました。一方後者では、納税者が評価通達に従って計算した評価額を通達の定めによって評価することが著しく不適当として税務署がした鑑定評価額が適法とされました。両者は結論において相反する結果となっていますが、その判断趣旨は一貫しています。つまり、評価通達には評価の法的拘束力はないという大前提に立ったうえで、評価通達は課税の公平を保つ趣旨から画一的な評価基準を定めて発せられているのであり、評価通達以外の方法で評価することに合理的な理由が無い限りは評価通達に従うべきであるということ。一方、評価通達を殊更不合理に解釈し意図的に作り出された事実に基づいてされた評価は仮に評価通達に従って計算された評価額であっても合理性に欠け(租税回避に該当するため)採用できないという趣旨です。すなわち、評価通達にそのまま従った課税処分の適法性については、合理性、客観性がある限りは適法であり、それが納税者の意図に基づき作り出された事実により著しく課税の公平を歪め不合理であると認められる場合は適法性が無いと言えます。ちなみに、租税回避の意図が無い偶然的に生じた事実によって納税額が減少する場合についてまでは合理性がないとは言えないと考えられます。

     このように、様々な手法を使って相続時に評価額を意図的に下げて税負担を軽くするケースが相次いだため、国税庁は非上場株式についての評価方法を見直す方針を示しています。令和8年内に改正議論を進め、令和9年度税制改正で調整する方向で進んでいます。評価ルールの抜本的見直しが実現すれば昭和39年以来の大きな改正になります。

     財産評価は奥が深く高度な技術を要します。資産税に関してのお悩みは専門家である掛川総合会計事務所にご相談ください。

    4 参考資料

    宇賀克也『行政法概説Ⅰ(第8版)』(有斐閣、2023)

    宇賀克也『行政法概説Ⅱ(第7版)』(有斐閣、2021)

    櫻井敬子=橋本博之『行政法(第5版)』(弘文堂、2016)

    塩野宏『行政法Ⅰ(第5版補訂版)』(有斐閣、2013)

    司馬えんに「判批」税研178号180頁-183頁(2014)

    週刊税務通信「判批」3071号2頁(2022)

    林仲宣=髙木良昌「判批」税務弘報70巻7号140頁-141頁(2022)

    林隆一「判批」税法学575号307頁-320頁(2016)

    監修 石川勝也税理士

    東海税理士会掛川支部所属/税理士登録2004年(平成16年)/税理士登録番号 99199/大学卒業後、会計事務所に入社し税理士を目指す。/税理士試験合格科目:簿記論、財務諸表論、法人税、消費税、相続税/2005年独立開業/2009年税理士法人掛川総合会計事務所を設立/2023年代表社員に就任。 

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