役員退職金はいくらまで出せる?損金にするための適正額と支給時の3つの注意点
2026/06/09
目次
1. 役員退職金はいくらまで出せる?「適正額」の計算方法
法人税法上、役員退職金には「〇〇万円まで」という明確な上限額は法律で定められていません。しかし、税務調査で経費として認めてもらうためには、「不相当に高額な部分」に該当しない適正な金額である必要があります。
実務上、また過去の裁判例や税務調査において、適正額を算出するために最も広く用いられているのが「功績倍率法(こうせきばいりつほう)」という計算式です。
功績倍率法の基本計算式
{役員退職金の適正額} = {最終月額報酬} ×{在任年数} ×{功績倍率}
この3つの要素を掛け合わせて計算します。
・最終月額報酬:退任する直前の役員報酬(月額)です。
・在任年数:役員として会社に在籍していた期間です(1年未満の端数は切り上げるのが一般的です)。
・功績倍率:役職や会社への貢献度に応じて設定する倍率です。
功績倍率の目安
功績倍率は、同業種で同じような規模の会社(同業類似法人)の支給状況をベースに判断されます。一般的には以下の範囲が相場とされています。
| 役職 | 功績倍率の目安 |
|
代表取締役 |
2.0倍 ~ 3.0倍 |
| 専務・常務取締役 | 1.5倍 ~ 2.0倍 |
| 平取締役・監査役 | 1.0倍 ~ 1.5倍 |
【計算例】
代表取締役が在任期間20年、最終月額報酬が100万円、功績倍率を2.5倍とした場合
100万円 × 20年 × 2.5 = 5,000万円
この場合、5,000万円が税務上も認められやすい適正額の目安となります。
3. 役員退職金を支給する際の「3つの注意点」
役員退職金を確実に損金(経費)にするためには、金額の妥当性だけでなく、手続きや実態が伴っているかどうかが非常に重要です。以下の3つのポイントを必ず押さえてください。
① 株主総会の決議と議事録の保管
役員退職金は、会社の財産を大きく動かす手続きです。そのため、従業員の退職金とは異なり、株主総会(または定款の定め)による決議が法律(会社法)で義務付けられています。
・株主総会を開き、退職金の支給額、支給時期、支給方法について承認を得る。
・決議内容を記録した「株主総会議事録」を作成し、会社に厳重に保管する。
注意!
議事録がない場合、税務調査で「手続きを経ていない不当な支出」とみなされ、全額損金不算入とされるリスクが極めて高くなります。
② 「形だけの退職(分掌変更)」は否認されるリスク大
完全に会社を辞めて引退する場合は問題ありませんが、社長を退いて「会長」や「相談役」に就任するケース(分掌変更といいます)は要注意です。
税務上、肩書きが変わっても「実質的に経営権を握ったまま」であれば、退職したとは認められません。
国税庁の基準で「実質的な退職」と認められるには、以下のような実態が必要です。
・常勤から「非常勤」になり、毎日の出社義務がなくなる
・役員報酬がこれまでの50%以下(大幅な減額)になっている
・会社の経営方針の決定権や、銀行の融資交渉などの重要業務から完全に外れている
退職の実態が伴っていない場合、支給した退職金は「退職金」ではなく「役員への臨時ボーナス(賞与)」と扱われ、税務上会社の経費にできなくなります。役員賞与は社長や役員が自由に支給額を決められるため、法人利益の調整手段として悪用されやすいことから、原則として会社の経費(損金)にできないとされている為です。
③ 引退直前の「不自然な報酬アップ」は避ける
功績倍率法の計算式(報酬月額 × 年数 × 倍率)を悪用し、退職する直前の数ヶ月だけ役員報酬を極端に跳ね上げ、退職金の総額を引き上げようとするケースがあります。
このような不自然な行為は、税務調査で確実に指摘されます。直前に報酬を上げた場合は、その増額分を排除した「本来の適正な月額」ベースで引き直して再計算され、オーバーした分は役員賞与と扱われ、②と同様に税務上の経費として否認されます。
4. 受け取る側の経営者個人にも大きな税制優遇がある
役員退職金は、会社側の節税になるだけでなく、受け取る経営者個人にとっても「最も税金が優遇されている所得」です。通常の給与やボーナスに比べて、主に以下の3つのメリットがあります。
1. 退職所得控除:勤続年数(在任年数)に応じて、まとまった金額が無税になります(20年勤続なら800万円、30年勤続なら1,500万円まで非課税)。
※退職所得控除額の計算の表
|
勤続年数(=A) |
退職所得控除額 |
|
20年以下
|
40万円 × A (80万円にみたない場合には、80万円) |
| 20年超 |
800万円 + 70万円 × (A-20年) |
2. 2分の1課税:退職金から控除額を引いた残りの金額を、さらに「半分(2分の1)」にした金額に対してしか所得税がかかりません(※役員としての勤続年数が5年以下の場合は2分の1課税の制限があります)。
3. 分離課税:他の給与所得などとは合算せず、単独で税率を計算するため、全体の税率が上がってしまうのを防げます。
5.まとめ:役員退職金の準備は計画的に
役員退職金は、会社の節税とリタイア後の資金確保を同時に叶えられる最高のツールです。しかし、税務署からのチェックが最も厳しい項目の一つでもあります。
・適正な金額の算定(功績倍率法)
・事前の役員退職金規程の整備
・株主総会のクリアな手続き
・退職後の勤務実態の変更
これらを漏れなく進めるためには、数年前からの事前の計画と、税務に精通した専門家のアドバイスが不可欠です。
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